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『チャレンジする心〜知的発達に障害のある社員が活躍する現場から』

『チャレンジする心』

チャレンジする心―知的発達に障害のある社員が活躍する現場から

チャレンジする心―知的発達に障害のある社員が活躍する現場から

一企業において、知的障害者に職場の一部門で働いてもらうときに、いかに損失を出さないように働かせるかという従来の発想でなく、いかに黒字を出し一部門として独立するか、という視点から、企業努力を行った、ある人事担当者の軌跡。


(本書要約)まず、知的障害を持つ人たちに自信を持ってもらうことが大変だった。「自分について話して下さい」と指示すると、「私は虫ケラです」と平気で言う社員がいることに驚かされた。これまでの学校や職場で、さんざん罵倒され、苛められ、殴られ、てきた社員たちは、本当に自分のことを虫ケラ以外の何者でもないと思っているのだ。毎日、昨日・一週間前・一ヶ月前の自分と比べ、何ができるようになったか、口頭で述べてもらうことから始めた。最初は、話すことすら震えてままならなかった社員が、次第にしっかりとした口調で話すようになっていく。また、親に何でもやってもらっているため、社会人として他の人たちが普段やっていることをできない人たちが多かった。家庭教育をするために私はここにいるのではない。それでも、家庭に一言言う必要があることもときどきあった。例えば、一人で電車に乗ることや、スーパーでメモ書きされた買い物を行ってくることすら、したことがない人がいた。そのような社員には、他の、やったことのある社員からさりげなくやる気を引き出してもらうシチュエーションを待つこともあった。一人一人が自分や自分のやることに自信を持てるようになると、社員同士でも助け合いが生まれるようになった。できないことに苦労している人には、自然と他の経験のある社員から助け舟が入るようになった。


そのような社会人としての基礎的な土台が出来上がってきた頃、部門の内容を見直すことになった。PCの解体作業だけではなく、もっとできることがあるのではないか、と見直すことにしたのだ。
人間であるから当たり前のことであるが、見過ごされがちなこと:彼らを「知的障害者」という括りで十把一絡げにはできない。そのことが日々ますますわかり、驚かされるのだった。文章や漢字、ひらがなすら書くのが覚束ない社員でも、計算だけは全く間違いなくスピーディーにやりとげる。そんな社員もいた。何をもって知的障害と言うのだろうか。多くの領域で平均的に出来る人だけが、果たして知的能力の高い人間なのであろうか。文章が書けなくても、計算は人一倍正確に速くやりとげられる。彼らは「知的に障害のある」と呼ばれてしまう。それでいいのだろうか。


実際、知的障害を持つ様々な人に接して見てわかったのは、彼らは決められた作業に非常に強いということだった。反面、想定外のことが起きるとパニックになってしまうことも多かった。マニュアルがあらかじめ規定されていると、一字一句その通りに仕上げることができた。逆に、こちらが一つでも忘れていることがあると、わざわざ指摘してくれた。


彼らのこうしたルーティンに強い性質を、部門の仕事内容に反映できないかと考えた。そうして、彼らにPCの操作を覚えさせることにした。すると、ある人たちは砂に水が染み込むようにぐんぐん操作を覚えていった。むしろ管理部門のおじさんたちより覚えがいいぐらいだった。おじさんたちはある程度覚えると、インストラクターに訊くのが恥ずかしいからか、自分たちで応用し始めるのだった。そして、同じところで右往左往し、前に進めなかったりする。知的障害を持つ社員たちは、その点素直だった。わからないところは、細かいところでも、ひとつひとつ、いくらでも訊いてきた。そして、本当に教えた通りにすぐやってみせるのだった。インストラクターも機転が利く人で、言葉でわからない人には図を書いて教えてみたりと、臨機応変に、いろんな教え方を持っている方だったので、このプロジェクトはぐんぐん成果をあげていった。


そうして、私たちの部門はパソコンの単純入力の作業を請け負うことになったのだ。知的障害を持つ人が、会社にとってほとんど無駄な(それどころか多くは足を引っ張ると看做される)存在である、というこれまでの企業側の考え方からすれば、これは極めて画期的な変化だった。
障害を持たない人たちの他部門と同等に売上を上げる、とまではまだ行かないが、少なくとも赤字で足を引っ張ることはなくなったし、また年々売上を上げる方向に、この部門の売上は上向いている。彼らはこれからももっと向上していけるだろうし、売上も伸ばしていけるだろうと楽観的に捉えている。(要約以上)


一読をオススメします。
あまりに印象に残ったので、
今この要約、一息で書いてしまった。